試合の展望
アジアカップ決勝トーナメント1回戦の相手はバーレーン。韓国のいるグループを首位突破してきたため、ある程度の実力があることが予想される。とはいえ、日本の選手の個々の能力を考えれば、普通に戦って勝てる相手である。この試合、早めに決着をつけ、怪我明けの富安や、疲労が心配される遠藤を休ませたいところ。
前半
スタメンは以下の通り。
スタメン
板倉がスタメンの点を除いて、前回のインドネシア戦と同じメンバーで挑む。
試合は、日本がボール保持する展開。立ち位置や動き方は、インドネシア戦と同じ。4141で旗手、久保は高い位置を保ち、堂安を含め、流動的にポジションチェンジを繰り返す。場合によっては降りてくることもあるが、常に低い位置を取ることはしない。
他方、左の中村は、外に張っており、中山の動き次第で内にポジションを取ることがあるが、堂安ほど流動的なポジションチェンジはしない。右サイドでは、堂安が内に絞ると、久保が右に流れるか、毎熊が前に出る。
守備については、ハイライン。高い位置ではプレスに行くが、少し運ばれると、やや形を保って受けに回る。相変わらず、ラインコントロールは、細かく行われている。
バーレーンは、日本と同じ4141。攻撃時も同じ形で、DMのアルハーダンがボールを積極的に受けに来る。CFは194㎝と大柄なユスフだが、イラクのように、極端なロングボール戦術はとらない。繋ぎつつ、機を見てロングボールをつけるような戦い方。
守備についても、4141を保つ。バックラインは高いが、こちらもプレスに行くわけではなく、コンパクトに中央のスペースを消すことを目指す。サイドにボールが出ると、全体をボールサイドに寄せるスタンダードなやり方。もっとも、特徴的なのは、DMのアルハーダンが、久保にマンマーク気味についている点だ。間で受けようとする場合には、マークの受け渡しをせずに自らついていく。ただ、サイドに流れた場合には、これを解除して、CBの前のポジションを保つ。
試合は日本ペースで進む。バーレーンは、球際は厳しく来るものの、日本の選手のポジションチェンジにやや苦しんでいるか。特に、WGが中に入り、IHと近い位置にいる場合、マークにつき切れない。例えば、20分のシーンを見てみる。
20分のシーン
板倉が富安にボールをつけた段階で、中村は外にいる。富安がボールを持つと、中山が外に開き、これに応じて中村が中のポジションを取る。ただ、中には、旗手がいる。旗手と中村の動きは被っているが、このポジションならば問題はない(低い位置で被ると、パスコースを消され、かつ、相手に距離を詰められてしまうが、この位置なら、むしろ細かい繋ぎで躱すことができて良い。)。中村がマークを引きつけたので、中山は、旗手にパスを出し、その後、旗手は中村につけてチャンスに結びつけた。
他方で、バーレーンは、日本の低い位置でのロストから、あるいは、オフサイドになったものを除き、まともなチャンスが作れない。これは、日本のプレスによりボールをつなげないという点もあるが、一番は、ロングボールを蹴っても、これを拾えない点にある。それは以下の2点による。
・ユスフが、富安、板倉に競り勝てない。
・ボールがこぼれても、サイドやIHの選手は、ビルドアップ時に落ちてきているため、すぐに拾える位置にはいない。
特に後者の点は重要である。ロングボール戦術を多用してきたイラクは、後ろからの繋ぎを放棄していたため、CFの周りに選手が集まるように準備していた。対してバーレーンは、後ろからの繋ぎを放棄していないため、CBがボールを持つと、前線の選手が落ちてくる。そして、出し手に詰まると、ロングボールを蹴る。しかし、それでは、セカンドボールを効率的に回収することはできない。
さて、日本は30分、先制に成功する。
先制のシーン
富安が左の中村につけ、中村は、遠藤に横パス。中のアルアスワドが遠藤に引っ張られ、毎熊がフリーに。遠藤は毎熊につけ、毎熊のミドルシュート。これはポストに阻まれるも、詰めていた堂安がゴール。
これは中山についても言えることだが、逆サイドにボールがある場合、しっかりと内に絞り、遠藤と2DM気味のポジションを取るようにしている。そうすることで、中盤のパスコースを増やしたり、場合によっては、ここからクロスに飛び込んでいくこともできる。このシーンも、毎熊がしっかり中を取っていたことから生まれた。ミドルシュートは、文句のつけどころのない素晴らしいものであった。詰める準備をしていた堂安もさすがである。
日本は、得点を奪うも、直後アクシデント。旗手がふくらはぎを負傷し、守田と交代。様々なポジションをこなせる旗手の離脱は、日本にとって激痛。
守田は、旗手よりやや下で受けることを好む選手だ。投入直後、守田が低い位置から落としを受け、良い形での攻撃が見られる。
38分のシーン
富安は、近い守田ではなく、1つ前の久保につける。久保は、ダイレクトで守田に落とし、守田もダイレクトで中村に展開。中村は、相手SBと1対1から、シュートまで持ち込む。
まず、富安がここで1個前につけるチャレンジをしたのが良い。これで相手の4141のブロックを1つ突破した。そして、守田が久保と近い位置にいることで、久保のパスコースが確保できている。そして、守田は、縦パスが出た時点で、左の中村を認識しているので、久保からダイレクトでボールを受けても、すぐに展開ができる。
バーレーンは、失点後、SBにやや高めのポジションを取らせるも、チャンスには結びつかず。日本も、点を奪うことができず、1-0で前半終了。
後半
メンバーチェンジなく後半に入る。後半すぐに、日本のプレスから久保がボールを奪い、ペナルティエリア内での混戦から、久保がゴールを決める。オフサイドフラッグが上がっていたが、どうみてもオフサイドではなかった。VARの結果、ゴールが認められる。VARがなかったらと考えると恐ろしい。
後半は、やや停滞した展開。日本もバーレーンも、決定的なチャンスを作ることなく、時間が進む。すると、63分、セットプレー時のコミュニケーションミスから、日本は失点し、2-1となってしまう。
68分、中村、久保を下げ、三笘、南野を投入。1人でポケットまで侵入できる三笘の復帰は、日本の大きな武器となる。
71分、上田の個人技から、3点目を奪う。このシーン、上田の躱し、シュートの技術は素晴らしかったが、その前の板倉の運びが良かった。
3点目の前のシーン
富安からボールを受けた板倉は、上の立ち位置。ここで、シンプルに、毎熊に出すこともできる。しかし、そうすると、バーレーンの左WGが、すぐに毎熊にプレスに来てしまう。そのため、板倉は、ボールを運ぶことを選択。そうすると、バーレーンの選手は、進路を塞ぎ、かつ、前線の南野らへのパスコースを切る必要が出てくる。そのため、バーレーンの左WGは中に引っ張られ、毎熊の前にスペースができる。板倉は、敵が絞った段階で毎熊にパスをつけたので、毎熊にスペースと時間がある。毎熊は、ここでドリブルを選択し、最終的に、ゴールをした上田に斜めのパスをつけることとなった。ブロックを構える相手には、ボールの運びが重要になることを再認識させられたシーンであった。
3-1となってからは、バーレーンは前に出てくるも、バックラインを高くキープできないため、日本にカウンターでのチャンスが多数生まれる。中でも、三笘は、前にスペースがあるため、ドリブルでチャンスを作り出す。しかし、決定機を創出しつつも、決めることはできない。しかし、バーレーンも、その後点を奪うことはできず、試合は3-1で終了する。
総評
戦術
日本は、前回良い形となっていた、インドネシア戦の戦い方を踏襲したため、総じて良かった。下手に特別なことをやるより、この形で戦うのがベストである。今後も同じような戦いをし、相手が上手い対応をしてきた場合に、微修正を加える、といったスタンスで臨むべきであろう。ただ、旗手の離脱がどう響くか。後半を見ても、高い位置でのプレーは、守田より旗手の方が適性があるように思われる。そうすると、今後の試合で、旗手を使うオプションがなくなってしまったのは、日本にとって激痛である。
バーレーンは、やや中途半端な戦い方であったか。技術もそこそこあり、また、CFもフィジカルに特化しており、ポゼッション、ロングボール主体の戦いどちらについても、一定レベルでは出来そうな印象。それゆえ、どっちつかずの戦い方となっていたか。韓国のように、個人の能力が極めて高い(アジアレベルで、だが。)のでない限り、普通に戦っては日本に勝てないであろう。イラクのような極端な戦い方をもう少し参考にするべきであった。
個人
ザイオンは、またもハイボール処理で不安定な点を露呈してしまった。もっとも、ショートパスの技術は高いので、GKとして、そこまで悲観的になる必要はない。バックラインは、総じて良かった。特にCBの2人は、ユスフに仕事をさせなかったのは素晴らしい。
遠藤は、時たまロストがあるものの、問題ない。後半、やや疲れが見えたのが気になる。久保、堂安は、攻守において抜群の出来。ゴールという結果を出せたのも、今後の自信につながる。また、彼らのような技術のある選手が、守備に走り回っているシーンは、日本中のサッカー少年たちに良い影響を与えるだろう。「抜群に上手い選手でも守備に走るのだから、トップレベルで戦うには、同じように懸命に守備をする必要がある。」と認識してくれれば、何よりである。
上田は、グループステージから徐々に調子を上げている印象。3点目の抜け出しは、バーレーンのバックラインが高く、そのため、後ろにスペースがあることを、前半から認識していたから成せたものである。準備していたクレバーなプレーであった。
途中出場の三笘は、1人でペナルティエリア内に侵入できる恐ろしい選手である。ただ、まだ万全の調子ではないか。早く、今シーズン序盤にブライトンで見せたスーパーな活躍を見せてほしい。浅野は、決定機を外しすぎたか。とんでもないミスも見られたが、メンタル的なものが影響してのことであろう。自信を持ってプレーしてほしい。