試合の展望
アジアカップグループステージ第2節は、イラクが相手。この試合に勝てば、ほぼ、グループステージ突破が決まるため、勝ちたいところ。対するイラクも、第1節でインドネシアに勝利しているため、日本戦に勝てば、グループステージ突破がほぼ確実になる。
日本はボールを持つことが予想されるが、イラクはこれに対しどのように戦ってくるか。
前半
スタメンは以下の通り。
スタメン
スタメンを見たときは、南野が真ん中、久保が右、伊藤純也が左と予想した。というのも、南野の左は、今まで何度も試してきているが、機能した試しがないからである。また、CFには浅野。特徴から考えると、ポストというよりは、南野らとのパス交換から、裏への飛び出しが狙いか。
しかし、いざ、試合を見ると、森保監督は予想を大きく裏切る采配をしてきた。まず、初期配置は、南野が左、久保が真ん中である。そして、浅野だが、裏抜けというよりは、真ん中にポジションを取り、ポストプレーをすることを意識している模様。おおまかな戦い方は以下のとおりである。
・ビルドアップは、通常の4231。守田は、ベトナム戦よりも低い位置を取り、42を形成。
・南野は、初期配置は左だが、頻繁に中に入ってきてボールを受けにくる。そして、空いたスペースは、伊藤洋が高いポジションを取ることで埋める(もっとも、後述するが、常にそうはならない、というより、できない)。南野が中に入らない場合、伊藤洋が中で高い位置を取るなどの動きはない。南野は左と中を行き来する一方、久保は左には来ないで、やや右寄りのポジションを保つ。
・ベトナム戦と異なり、伊藤純也は、幅を取り、中に入ってくることはあまりない。他方で、中のポジションには菅原が入ってくる。
・伊藤洋が左でボールを持つと、南野は、中でボールを受けるようなポジションを取る。おそらくこれは徹底されており、伊藤洋は、ボールを受けると、必ず中を見て南野へのパスを模索していた。また、南野は、中のポジションを取ったとき、裏抜けを何度も試みていた。対して浅野は、裏抜けというよりは、足元でボールを受ける動き。センターポジションをキープする。
・守備は、4231の形のまま。そこまでハイプレスに行くわけではない。
対して、イラクは4231。守備時は、442のような形か。戦い方は以下のとおりである。
・ビルドアップの際、後ろからの繋ぎは放棄。CBがボールを持つと、そのままCFのフセインにロングボール。あるいは、GKに一度下げてロングボール。体感、GKに下げてロングボールが多い。これは、日本の4231のラインのうち、特に2のMFを、ある程度前に引き出させるのが狙いであろう。そうすることで、ロングボールに対する、セカンドボールを、MF2枚に拾わせにくいようにする。
・ロングボールをけると、イラクの23は、ボールないしフセインに寄る。1人は必ず裏抜けを狙い、他は、後ろでこぼれ球を拾うよう準備。その際、2人か3人が寄ってくるが、そうすることで、数的優位の状態でボールを拾える(日本は2センターであり、かつ、SBやWGがセカンドボールを拾いに絞ってこないため)。
・日本がボールを持った場合、WGは日本のWGを切るのが原則。日本が低い位置でボールを持つと、WGはSBまでプレスをかける。日本がハーフライン付近で持つと、イラクWGは、日本WGを切りながらSBに軽くプレスをかける。ボールがWGにわたると、直ちにプレスバック。
・ボールが外に出ると、ほぼほぼ、ロングスローでCFに当てる。他のやり方は、ロングボールをける場合と同様。前でボールを持っても、周りのカバーがいないとみるやすぐにシュートを打つ。ザイオンが不安定な点をついたCK狙いもあるが、一番は、中途半端な形でボールを奪われ、カウンターを防ぐ狙いであろう。
日本は、イラクのロングボール戦術に苦しむ。フセインのフィジカルが強く、競り合いに勝てない。さらに、セカンドボールをイラクに拾われてしまう。その結果、前半5分に失点してしまう。
先制点のシーン
右からのロングボールに競り負け、ボールはペナルティエリアに。ジャシムのクロスに、最後はフセイン。上記シーンでは、板倉の寄せがやや甘かったか。さらに、ザイオンがボールをはじいた位置も悪かった。前節に続き、試合の入りが悪いのはとても気になる。
失点はしたものの、逆転する力を持っている日本だが、攻撃の形が作れない。やはり、南野のポジションが悪い。前節、南野は真ん中で良いプレーを見せていたが、左だと活きない。この点、左から中にポジションを移すのだから、変わらないと考える人もいるかもしれない。しかし、それは間違っている。スタート位置が左なのが問題なのだ。今節における、南野左の問題点は以下のとおりである。
・南野のプレーポジションが悪い。スタートポジションが真ん中であれば、右、左に顔を出すことができる。他方、スタートポジションが左だと、左と真ん中でしか移動ができない。南野の特徴は、流動的にポジションチェンジをしながら、周りの選手と細かいパス回しをしたり、狭いスペースでターンして前を向くことができる点にあるのに、その特徴を中々発揮できない。
・南野が中に絞った場合、左の高いポジションに選手がいない。日本のビルドアップは42で行っているため、常に伊藤洋が高い位置を取れるわけではない。そのため、南野が中に絞っても、左のスペースを使えない。この場合、南野が中で受けても、左を使えないことで、彼の選択肢も減ってしまう。
・左が伊藤洋であること。彼は、低い位置でCBとビルドアップを組む能力に長けているが、オーバーラップして精度の高いクロスを上げたり、細かいパスをつないで崩すことが、今までの日本のSBと比べて、得意というわけではない。左SBが全盛期の長友で彼に高い位置を取らせるのを徹底していれば、南野を左に置く上記戦術も、いくらかはましになったであろう。実際、伊藤洋がサイド深くまでボールを持てても、クロスの質が低かった。
これらに加えて、浅野にボールが入らず、連携が取れない。STに久保を置いたということは、中盤あるいは右での連携を期待してのことであるから、CFにはポストプレーを求めるのが基本であろう。実際、浅野はポストプレーを試みた動きをしていたが、あまりボールが入らない。
というより、それ以前におかしな点がある。浅野の特徴は、スピードを活かした裏抜けである。なのに、浅野は中々裏抜けを試みない。これは、中に入った南野が裏抜けを試みていることからすると、おかしな話である。チームとしては、裏を取る意識があるのに、これが得意な浅野には、裏抜けをそこまで求めない、のである。それならば、南野よりスピードがある浅野に裏抜けをさせ、中に入ってきた南野にポストプレーをさせた方が良い。
さらに、今節も守田の位置が低い。ベトナム戦に比べて、これはより顕著であった。これは、南野と久保が中に入っていることから、バランスを取ったのであろう。しかし、後述する、後半でチャンスが生まれたシーンを見ると、やはり、前半から守田は高い位置を取らせた方が良かった。
前半、日本はチャンスシーンがほとんど作れない。クロスを上げる場面はあるのだが、得点の気配がしない。これは、クロスに対する中の合わせ方に問題がある。試合前にしっかりと準備をしていなかったのか。例えば、20分のシーンを見てみる。
20分のシーン
一応は、狙い通り、南野が空けたスペースに伊藤洋が飛び出し、最後は南野のクロス。しかし、中には浅野しかおらず、久保と伊藤純也は、クロスに入るタイミングが遅れる。久保が右寄りのポジションを取っているため、この遅れは必然。同じように、クロスが上がるシーンはいくつもあったが、全く中と合わない。この試合は、クロッサーの精度が低かったというのもある。しかし、そもそも、左の深い位置を伊藤洋や南野が取ることを前提にしているのなら、中に入る選手の数や入り方について、事前に準備をするべきである。なのに、何ら工夫がない。ここが大きな問題である。やり方としては、ボールが左にいった段階で、久保を中央高めに行くよう徹底させるだとか、守田に高い位置を取らせる、そして、浅野はニア飛び込みを徹底させ、他の選手が後ろから入るなど、方法はいくらでもあった。
日本は効果的な攻撃ができない中、イラクは上記戦術を徹底する。とりあえず、フセインにロングボールをけり、セカンドボールを拾う。しかし、このシンプルな戦術は、日本に上手くはまっていた。
そして、前半48分、菅原の甘いプレスから裏に抜けられクロス。またもフセインに決められ、0-2。
2失点目のシーン
このシーンも、板倉の寄せがやや甘かったか。伊藤洋がフセインにつき切れなかったのも痛い。
結局、前半は0-2で折り返す。
後半
後半開始から、谷口に代えて富安。イラクも、前半終了間際に足を痛めたフセインに代えてアリを投入。
また、南野のポジションを中に変更。そして、久保を右に、伊藤純也を左にした。さすがに、全く機能していないことに気づいたのであろう。しかし、前半の早い段階で、これが中々機能しないことが分かったのであるから、前半のうちに、配置を変更すべきであった。
後半は日本ペース。南野はやはり真ん中の方が活きる。周りといい距離感でパスワークに参加する。そして、守田が高い位置を取り出したことで、イラクの442の44ライン間で南野、守田が入りボールを受ける場面が出てくる。
55分、浅野がペナルティエリア内で倒されPKを獲得。かと思われたが、VARが入り取り消される。しかし、このシーンは、前半では中々見られなかった形でチャンスが生まれた。
55分チャンスシーン
守田が44の間に入ることで、前の4が守田を見る必要がある。右WGが守田を見ることで、伊藤洋が空く。そして、これに連動して、守田がポジションチェンジをし、ボールを受け、伊藤純也に縦パスをつける。もっとも、このシーン、守田はあえて大外にポジションチェンジをする必要はなかった(伊藤洋から伊藤純也に直接縦パスを通せるし、守田が中にいた方が、相手を引き付けられるし、伊藤純也がポケットを取ったときにペナルティエリアまでスムーズに飛び込めるため。)。しかし、いずれにせよ、チャンスは、守田の位置を高くしたことに起因する。
続けて59分、浅野のポストプレーから、伊藤純也がコーナーを獲得。これも、守田が高い位置を取ったことによる。
59分のチャンスシーン
浅野が引いて受けた時点で、近くに守田と南野がいる。浅野が空けた横のスペースに守田が飛び出すことで、伊藤純也と2対2の形を作れる。守田のポジションが低いと、浅野は後ろに下げるしかないので、やはり、守田が高い位置をとることは重要である。このシーンは、浅野のポストプレーが効いた唯一のシーンだったように思われる。
対して、後半のイラクは、フセインが抜けたことで、前線で起点が作れない。かつ、日本がフォーメーションを変えたため、これに合わせることができない。
しかし、65分、イラクは7番に代えてバックの6番を投入。541に変更しドン引きを始める。その結果、中盤の狭いスペースを日本に使われる機会は減るが、全体を低く下げたため、押し込まれる。さらに攻撃のチャンスも減る。しかし、残り、ロスタイムを入れて約30分。守り切ってしまえばいい。こうなると、イラクとしては、全員が集中力をもってどこまで耐えることができるかが勝負である。
日本は、60分に浅野、久保に代えて堂安、上田、73分に守田、伊藤純也に代えて前田、旗手を投入。形は4231あるいは433のままだが、旗手は高い位置を取ることを徹底。相手が541となったためであろう。しかし、もっと早い段階から、守田に高い位置を取らせたかった。旗手が入った時点では、以前より、スペースが埋まってしまっているためである。
日本は、ロスタイムに遠藤のヘディングで1点差に迫るも、試合はそのまま終了。1-2で、グループステージ第2節を落としてしまう。
総評
戦術
私は、批評のスタンスとして、チームとしての戦術が悪いと断言できる場面は少ないという、立場である(戦術が全くない・不明という場合は除く)。というのも、その試合で採用した戦術Aが機能しなかったのは、選手個人のコンディションが悪かった、あるいは、選手個人が完遂できなかったという可能性もあること、また、代替手段である戦術B、Cが機能する保障がないためである。したがって、戦術が悪いと断言できるのは、機能しそうな戦術B,Cがあるのに、機能しないことが予想されるAを採用した等、限定的だと考えている(無論、選手のコンディションを見極められていない、あるいは、もっと準備すべきだ等他の批判はあり得るが)。
さて、このイラク戦の戦術はどうかというと、戦術が悪い。もちろん、全てが悪いというわけではないが、少なくとも、左SBに伊藤洋を置き、かつ、高いポジションを徹底的にとらせるわけでもないのに、南野を左に置いた判断については、断言できる。
まず、今まで数々の親善試合を行ってきたが、南野を左において機能した試合は、相手が一定以上のレベルであれば、一度もない。にもかかわらず、スタートで南野を左に置くという判断は理解できない。積極的に中を取るよう指示を出していたとしても、スタートが中央の場合と比べて機能しないのは、予想がつく。そして、実際に機能しなかったのに、前半、手を打たなかったのは、判断が悪すぎる。後半になって選手は変えず、位置のみを変えていることから、前半の配置が悪手だったことは自覚していたであろう。
では、代替手段である戦術Bがなかったのかというと、ある。ベトナム戦後半のように、伊藤純也を左に置けばいい。少なくとも、伊藤純也の左は、その試合、ある程度機能していたのだから、いじる必要はない。仮に、伊藤純也の左が機能していないと評価するのであれば、中村や、それこそ、左で使うプランがあった(のであろう)前田を最初から使えばいい。南野を左に置く判断は、今までのテストの結果を見るに、最悪の配置である。
CFに浅野を置いた判断も、微妙である。少なくともこの試合、CFには、裏抜けよりもポストプレーを求めていた。そうすると、ポストプレーが得意な上田を使うのが通常の判断である。ただ、これは難しい点ではある。なぜなら、上田のCFが今まで機能してきたかというと、必ずしもそうは言いきれないからだ。とはいえ、選手の特徴を考えれば、スタートは、浅野より上田を使うべきであったか。
また、CFに関して浅野を使うのであれば、なぜ浅野にポスト、南野に裏抜けを求めたか、である。先述のように、前半、南野は中央に入ると、ボールを受けに行くだけでなく、裏抜けも積極的に狙っていた。しかし、裏抜けは浅野の十八番である。ならば、浅野に裏抜けを、南野にポストを求めるやり方もあった。だが、これも難しい判断である。南野は何でもできる選手ではあるが、後ろ向きのポストプレーではなく、裏に抜けてボールを受けさせる戦術も、なくはないからである(いつかは忘れたが、南野をCFに置きポストプレーをさせた試合は機能していなかった。)。しかし、CFに浅野を置くのであれば、役割を変えても良かったのではないか。ただ、日本の42はロングボールを多用しない傾向にあるのに、南野を中に入れて裏抜けさせるやり方を取ること自体、やや疑問か。ならば、普通にサイドに張らせて裏にロングボールを蹴る方がましてはなかったか(その場合、更に、南野を左に置く理由はなくなるのだが。)
次に、守田の立ち位置である。ベトナム戦、守田が高い位置を取ることでチャンスが生まれた。そのため、この試合は高い位置を取らせるかと思えば、スタートから、ベトナム戦より低い位置であった。これは、南野が中に入ってくることに対応したものであろう。しかし、DFがハーフまでボールを持ち込んだ段階で、イラクがやや引いた立ち位置を取るのは予想できたのであるから、その際、守田は徹底的に高い位置を取らせるべきであった。実際、後半序盤のチャンスは、守田が高いポジションをとったことから生み出せたものである。
最後に、交代カードである。中村が出てこなかったのは、コンディションの問題であろう(そうでなければ最悪の判断である)。そうすると、左に入れるのは、伊藤純也、前田、あとは旗手か。65分の段階で、相手は541に変え、徹底的に守備に入ることは想像できた。そうすると、以後、押し込む状況になるのは必然である。そこで左を誰にするかだが、細かいスペースで崩すことできる旗手か、あるいは、伊藤純也をフルで使うということになるだろう。伊藤純也はスタミナもあり、代表ではフル出場をする機会が多い。対して、前田は、この2人に比べると、スペースが必要なプレイヤーであるから、この状況では選択肢に入りにくい。使うなら最前線か、あるいは相手がドン引きしていない、試合の初めから左で使うべきであったであろう。
にもかかわらず、前田、左に投入。最初、442に変えたかと思ったが、そのまま左。この判断は疑問が残る。なお、仮に、前からのプレスのためという理由であったら、センスがないというほかない。イラクは前半からロングボールを徹底してきたのであって、ドイツやスペイン相手の場合と比べて、プレスの効果はそこまで高くないためである。どうか、前田は狭いスペースでも崩すことができるから、という理由であってほしい。
日本は、自ら試合を難しくしたか。攻撃については、策士策に溺れるではないが、前半、余計なことをして自滅した印象。逆に、守備については、対策が何もなかった。
対するイラクは、何も言うことはない。完璧な戦術であった。ロングボール一辺倒のサッカーにも、細かい戦術があるということを再認識させられた。
個人
ザイオンは、やや1失点目のクリアが甘かったが、あれはDF陣の問題であろう。板倉は、2失点とも寄せが甘かった。ビルドアップやカバーは素晴らしいだけにもったいない。谷口は、フセインに悩まされたか。両SBはパス、特にクロス精度が低すぎた。菅原に関しては、守備で簡単に裏を取られたり、プレスをはがされるシーンがあった。
遠藤と守田は、中盤でボールを回収しきれなかったか。しかし、これはチームとしての問題が大きいであろう。セカンドボールの回収に際し、相手が人数をかけてくるのすぐに分かったのであるから、バックラインをより高くするだとか、ロングボールを蹴られた段階で、一瞬、SBを絞らせる等の対応が必要であったか、
伊藤純也と久保は共にイラクの左SBに苦しめられた。ただ、前半から後半序盤の形で試合を見たかった。南野は、真ん中に入ってからはさすがの一言。浅野は、ポストプレーが上手くいかず。彼も戦術に引っ張られた選手の1人でもあり、少々酷か。
途中出場の選手は、基本的にまずまず。旗手、堂安はもっと早い段階から見てみたかった。特に旗手を入れて高いポジションを取らせるのは、これからの戦いに取り入れたいところ。ちなみに、これは鎌田が以前までやってくれていた。クラブで結果が出ていないとはいえ、鎌田はオプションの1つになるのに、なぜ呼ばなかったのか、やや疑問である。
イラクの選手は、チームとしての戦術を完遂していた。特に、言わずもがな、フセインは素晴らしかった。それと、左SBの選手は、前半から伊藤純也、久保に自由にプレイさせておらず、素晴らしかった。
日本は次節インドネシア。勝たねばならないため、手堅い戦いをしたいところ。