試合の展望
アジアカップが開幕した。日本は、ベトナム、イラク、インドネシアと同組に入った。優勝が期待される中、第1節はベトナムとの試合。
前半
スタメンは以下の通り。
スタメン
CFには細谷が入る。押し込む時間が長いことが予想されたため、体を張れる選手を採用したか。上田でないのは、コンディションを考慮したか。
キックオフから、日本、ベトナム共に積極的にプレスをかける。
序盤の日本のビルドアップの特徴は以下の通り。
・低い位置でのビルドアップの際、伊藤洋、菅原の片方が中に入り、32を組んだり、サイドに開き42を取るなど流動的。
・遠藤と守田は、遠藤が引き気味で、守田は自由にポジションチェンジ。高い位置をとり、南野と2ST気味のポジションを形成することも。
・南野も流動的にポジションチェンジを繰り返す。落ちてきて低い位置からのビルドアップに参加する場面も。他方で、ボールがWGに入ると、サイドのスペースへ抜け出し、ボールを受ける。もっとも、SBがオーバーラップをしてきた場面では、中をキープ。
・両WGのポジションは対照的。中村は高い位置で幅を取る。他方で、伊藤純也は、開いてボールを受けるよりも、細谷に近い位置に入る。
対するベトナムの特徴は以下の通り。
・3421でビルドアップを形成。CB3枚は横幅を広くとり、斜め前でDM2枚がボールを引き出す。彼らがCB間に入ることは基本ない。要は、32で三角形をまず作る。CBの幅を広くとることで、日本の前線2枚がCBにプレスに行っても、距離を詰め切れないだけでなく、パスコース1つしか切れない。
・CB3枚のうち、サイドのCBにボールが入ると、DMの一枚が寄ってくる。そして、WGはサイドラインに張り、かつ、STの片方が縦の位置に入る。そのため、ボールホルダーであるCBを起点に、ひし形の関係ができる。イメージとしては、上の基本フォーメーションを維持し、横にスライドする形である。
・前や斜めにボールを通せないときは、斜め後ろにポジションを取るCBか、前で張っているCFに長いパスを通す。CFは、下りずにCBの前に立つことで、ビルドアップの逃げ道を用意。
・ボール奪取後も、速攻にをするケースは少ない。一度ボールを下げ、4321の形を取り攻撃に移るということが、共通認識となっているのであろう。
試合は日本がボールを保持して進むが、狙い通りの戦い方ができていたのはベトナムか。日本のハイプレスは、ベトナムに中々はまらない。それは以下の理由による。
ベトナムの3に対し、日本は南野が高い位置を取る2でプレスをかけるのだが、数的不利となっている。加えて、ベトナムのSTが、サイドと真ん中を行き来する嫌なポジションを取ることで、遠藤と守田が前に中々出れなくなる。そのため、ベトナムのDM2枚に対して強くいけない。ここでWGの片方がCBや相手DMに行くことも考えられるが、そうすると、34のワイドの選手が空いてしまうため、中々前に出ることができない。日本のSBが押し上げることも考えられるが、ベトナムのST2枚はサイドの裏への飛び出しを積極的に狙うため、こちらも出にくい。
ベトナムは日本に対する準備を徹底的にしてきた。そもそも、日本のキックオフ時のフォーメーションは、ほとんど4231なので、準備はしやすかったであろう。4231あるいは442でプレスをかけてくるのはわかっているので、これを前提に、ビルドアップの形を組み立ててきたのであろう。この試合、ベトナムの選手がとても上手くみえた。たしかに基礎技術は高いが、戦術を徹底的に落とし込んだため、より一層、そのように見えたのであろう。
ベトナムの守備は、高い位置では日本にプレスをかけるも、ハーフを超えたあたりからは引く。もっとも、ただ引くのではなく、532あるいは541の形で、縦の幅をコンパクトに、かつ、ラインを比較的高めに保つ。そのため、日本の中盤、前線にスペースが生まれない。
上記戦略をとってくる相手に対してとり得る戦術は、現代サッカーにおいて、大方決まっている。それは、以下のものである。
・➀WGは幅を取ること。相手WBあるいはSBを引き付け、CBとSBの間に他の選手が飛び込むスペースを作るためである。幅を取るのは、SBでも良いが、その場合でも、高いポジションを取る必要がある。
・➁中盤の選手は高い位置を取るよう意識すること(今節で言えば、守田と南野)。相手DFをピン止めするためである。ずるずる下がると、相手バックラインが高い位置を取り、そのままプレスをかけられてしまうためである(もっとも、あえて引きずり出すという戦術もあるが、53のブロックを組まれた場合、スペースは中々空かないため、今節ではとりにくい)。➁をすることで、➀のサイドの選手がボールを受ける→これに応じて➀の選手が空けた中のスペース等に➁の選手が飛び出すまでセット。
・➂ボールを持つ時間が増えるDFが、前にボールを運ぶこと。相手選手を1枚引き出し、マークを外させ、パスコースを作るためである。
しかし、序盤、日本は中々ベトナムの守備を崩せない。それは、➀➁を取っていないためである。
まず➀について、中村は高い位置で幅を取っているが、伊藤純也は中を取っている。これはおそらく、あらかじめ伊藤純也のタスクとして設定されていたであろう。たしかに、伊藤純也が中を取ることで、➁のピン止めの効果はある。しかし、先述のように、➀と➁はセットで取る必要があるため、伊藤純也が中を取った段階で、菅原が高い位置で開く必要がある。しかし、伊藤純也が中をとっても、サイドに誰も張らない。そのため、このスペースは無駄になってしまう。特にベトナムは、サイドで日本がボールを持つと、横幅をコンパクトにしてボールサイドによるため、逆サイドが空く場面が見られた。にもかかわらず、サイドで張る選手がいないため、前半では、ロングボール等でサイドチェンジをする場面が見られなかった。
➁について、守田と遠藤の位置が低い。遠藤は守備的な選手であることを前提にしても、もう少し高い位置を取り、相手マークを引き出したいところ。守田は高い位置を取る場面もあったが、前半はそれを徹底していないようであった。加えて、南野は、ボールを受けに降りてきてしまうので、なおのこと、高い位置で相手をピン止めできない。
しかし、日本は先制に成功する。先制点はCKからだが、CKは、以下のように、守田が高い位置を取ったことで獲得できた。
1点目CK獲得前のシーン
このシーンでは、守田は高い位置を取り、南野と共に、細谷の近くにポジションを取る。そして、谷口がボールを運んだことで、ベトナムは、選手を1人プレスに行かせなければならない。その結果、マークがずれる。ベトナムの16番は、内に絞った中村と守田両方を見なければならない。そして、少しスペースができた中村に、谷口が縦パスを通し、オーバーラップした伊藤洋がコーナーを獲得した。中村が中に絞ったのを見て、伊藤が幅を取っているのも重要なポイントである。
先制した日本だが、セットプレーから2点取られ、逆転を許す。セットプレーは、取りさえすれば、そこからチャンスが生まれるため、与えないことがまずは重要である。
さて、逆転された日本だが、ベトナムの上記戦術に手を焼く。CBや遠藤がボールを運ぶことはできているが、➀➁ができていない。そして、守備の問題も未解決である。プレスがかからないのに、前線2枚がプレスに行くため、軽くパスで躱されてしまう。
しかし、さすがに日本の選手は技術が高いため、個人の力で逆転に成功する。
まず、44分、押し込んだところから、南野のコースをついたシュート。ペナルティエリアまで押し込めば、個人の技術、対人能力で勝負は決まるので、ここまでくれば日本が有利。
続けて、48分のチャンスシーン。これは、菅原が中を取り、伊藤純也が幅を取ったことで生まれる。菅原が中を取ると、菅原のマークが中に引っ張られるため、より、伊藤純也がフリーになりやすくなる。伊藤純也がフリーになったことで、菅原との連携でポケットに入り込み、クロスまでもっていくことができた。
48分のチャンスシーン
続けて49分、中村のゴラッソで逆転。やはり中村はシュートがうまい。ただ、このシーンはベトナムの守備が問題であった。
3点目の前のシーン
遠藤がボールを持った段階で、南野が空いている。疲れが見えたか、前半終わりで気が抜けたか、中盤2枚が間を切れていない。加えて、バックラインも低くなっており、中盤との間にスペースができている。そのため、南野にパスが通り、かつ、前を向かせて時間を与えてしまった。ベトナムからすると、防ぐことができた失点であったといえる。にしても、中村はシュートが上手い(2回目)。
ロスタイムに逆転した日本は、3対2で前半を終える。
後半
後半開始から、細谷に代えて上田が入る。細谷はほとんど目立っていなかったが、541でブロックを作られた場合、CFは空気になることが多い。かつ、日本は前半、中々、サイドの深い位置に入ることができなかったため、致し方ないといえる。
後半から、守田が高い位置を取るのを徹底しだす。また、リードしたこともあり、CBにプレスをかけないことを原則とする(ちなみに、前半終わりころからややその傾向はみられた)。例外的に、サイドにボールが入りそこからCBにバックパスをした場面等、プレスがはまった場面では、CBまでプレスをかける。
後半の試合は、やや膠着気味。日本がプレスに行かなくなったため、ベトナムに時間が生まれるが、日本の守備を崩すことはできない。また、ベトナムにやや疲れが見え始めたか、コンパクトな守備が前半よりできていない。
日本は、62分、中村を下げ、堂安を投入。そして、堂安と伊藤純也のポジションを入れ替える。すると、伊藤純也は左で幅を取るようになり、チャンスになりそうなシーンが散見。やはり、伊藤純也は、幅を取る方がその特徴を活かせる。
さらに、76分、守田、菅原を下げ、佐野、毎熊、82分には南野を下げ、久保を投入。ベンチから久保が出てくるのは、相手からしたらふざけるなという話だろう。
久保投入直後の85分、上田がチーム4点目を決める。
4点目のシーン
前に出るしかないベトナムは、中盤の選手がプレスに行くも、バックラインはやや低い。バックラインをコンパクトにし、かつ、守備の時間が多い場合、チーム全体として体力を消耗する。そのため、後半では、間延びするケースが多く、実際、このシーンでは、堂安、久保にスペースをあたえてしまった。それにしても、久保は狭いスペースでのプレーが本当にうまい。アジアカップでは相手が引く場面が増えるため、久保の使い方が重要になってくるであろう。
試合はそのまま終了。アジアカップ初戦を4対2で勝利。幸先の良いスタートを切った。
総評
戦術
まず何よりも、セットプレーの守備は大きな課題。セットプレーのミスは、失点に直結、そして、敗北に直結するためである。直ちに改善する必要がある。
次に、伊藤純也の使い方だが、やはり彼はサイドに開かせた方が良いのではないか。そして、菅原に中を取らせるべきであろう。WGに中を取らせる戦術にこだわるのであれば、右を久保か堂安にするべきか。
また、引いた相手と戦うであろうこれからの戦い、中盤の選手のポジショニングは修正したほうがよさそう。今日の選手であれば、守田、南野が高い位置で2STを形成するようにしてもよい(
プレミアリーグ21節で、ニューカッスルに対してシティが取った戦術と似たようなもの)。そこまでいかなくとも、彼らがもう少し高い位置を取ることは、これからの戦いで必須であろう。
最後に、プレスのかけ方である。正直、32あるいは34に対するプレスは、全くもって機能していなかったといえる。今回は、ベトナムの攻撃能力がそこまで高いものではなかったこと、リードしたことで引く戦術が取れたから良い。しかし、あのプレスの外され方をしてしまうと、同点やビハインドの段階や、韓国などが相手では致命的である。森保監督は、3バックのプランを持っているため、プレスがはまらないときは、後半から3バックに変更するのも良いだろう。
とはいえ、グループステージ初戦ということも踏まえれば、全体としてそこまで悪い内容ではなかったであろう。
個人
緊張からか、入りは少し悪かったか。しかし、そこまで調子が悪い選手はいなかったか。
まず、CB2人は、競り合い、インターセプト、ビルドアップ等問題ない。特に、引いた相手に対する縦パス、プレスを躱すパスなどの能力が高い。SBの2人は、あまり目立たなかった。伊藤洋はバランスのいいポジショニングが取れていた。他方、菅原については、ポジショニングのせいで、伊藤純也との関係性がやや悪かったか。戦術に引っ張られた形か。
遠藤は可もなく不可もなくといった感じだが、最近のリヴァプールでの試合を見ていると、本領発揮とはいいがたいか(周りのレベルが高すぎるというのもあるが…)。守田は、後半から高い位置を取っていたが、自らの判断であったら流石である。それを抜きにしても、流動的に良いポジショニングを取れていた。
採点では最も評価が高かった南野であるが、攻守にわたって抜群の存在感であった。今日のような試合では、下がらず高いポジションを保てれば、チームはもっと良い状態になるであろう。中村は、見事なシュートであった。加えて、ポジショニングについても、伊藤洋が上がるまではサイドに張り、彼が高い位置を取ったら中に入るなど、周りをよく見たプレーができていた。対して、伊藤純也は、普段の活躍からしたら物足りないか。中に絞る場面が多かったため、彼も戦術に引っ張られた形であろう。細谷は、今日のような戦いで何もできないのは致し方ない。悲観することはない。
途中から入った選手について、上田が点を取れたのは、これからの戦いでプラスに働く。FWとして、中々点が取れないと、以降の試合、チャンスで思い切りのよい判断ができなくなってしまう。今節、ボールは中々収まらなかったが、ゴールを決めたことでこれからの更なる活躍を期待する。他の途中投入の選手も問題なかったが、やはり久保はレベルが違う。
なお、日本の選手は相手をなめていると指摘するものもいるようだが、今節は、ベトナムの準備をほめるべきであろう。イラク、インドネシアも相応の準備をしてくるであろうから、更に日本も良い準備をする必要がある。戦力は日本の方が上だが、足元をすくわれる可能性があるのが、国際大会である。